「大学はゴールではなく、スタートなんだ。」 青山学院大学経済学部 受験生応援メッセージ

大学のHPに僕の大学生活を振り返っての、受験生へのメッセージが乗りましたので、よかったらみてみてください。

http://www.econ.aoyama.ac.jp/department/examinee/messagepage10.html


以下、転載。




大学生活について


2005年4月、僕は縁あって青山学院大学経済学部に入学しました。当時の僕は、福島の田舎から東京の都会での一人暮らしに思いを馳せて、新たな大学生活に期待をふくらませていました。

大学に入って早々、5月には退学を真剣に考えるくらい大学に絶望しました。理由は周りの学生とあまり馴染めなかったことと、経済学への失望です。

僕が経済学を選んだのは、高校生の頃から起業に興味があり、それに役立つ学部に行きたかったからです。受験した学部も商学部経営学部などに絞っていました。しかし、授業で習う経済学は、視点があまりに大きく、国家の経済政策を考える場合や、効率的な市場のあり方を考える上では役立ちますが、残念ながら実践的なものからは程遠いもので、僕が求めているとは大きく違いました。

また、机上の空論とでも言うべき、経済学の現実との乖離にも失望しました。少し専門的ではありますが、一例を上げます。現在、どこの経済学部でも学ぶミクロ経済学に「一物一価の法則」というものがあります。これは市場が完全競争状態であると仮定したときに、価格の自動調整メカニズムにより需要と供給の均衡点に価格が調整され、結果としてある商品の価格はどこでも全て同じになるというものです。こんなことは現実の世界ではとてもありえないと思いました。コンビニとスーパーとでは同じ商品なのに値段が違います。このような仮定を前提として経済学の理論は構築されているのです。このような仮定のもとでは現実を捉えることはとても不可能です。これが現在最も一般的な経済学の姿です。

経済学に失望した僕は経済学に期待することはやめて、大学の外に答えを求めることにしました。具体的には、ITのベンチャーインターンシップを始めました。インターンシップとは、学生の就労体験と言われる就業形態で、学生の身分で企業の中で正社員のような働き方を体験できる場です。幸運にも、当時立ち上げ1ヶ月のITベンチャーインターン生として参加することができ、大学の授業は二の次で、インターン生として仕事をやらせてもらう日々を送り始めました。その後、大学2年の終わりまでインターンを続け、計3社のITのベンチャー企業でインターンの経験を積みました。昨年の就職活動ではこの経験が大きな武器となり、希望の企業に就職することができました。

そして大学3年生のときに休学し、アジアの8カ国を8ヶ月間かけて一人で旅をしました。初めての海外旅行・海外生活だったので、毎日が本当に新鮮でしたし、学ぶことも非常に多かったと思います。この海外生活で僕の人生は大きく変わりました。僕はアジアの発展途上国を旅していたので、楽しいことも多い反面、圧倒的な貧困に目を覆いたくなるようなことが何度もありました。

当初は海外で楽しむことしか考えていませんでしたが、徐々に現地で友達も増え、その友達が貧しいことで苦しんでいるのを見ているうちに、だんだん自分の問題のように感じ始めました。途上国の貧困は一個人が一人で頑張っても解決することは不可能な大きな問題で、社会構造の問題により引き起こされています。そのような問題意識が芽生えたころに僕は旅を終え、大学に復学しました。

貧困を解決するにはどうすればいいのか。この世界の問題を解決するにはどうすればいいのか。そういうことを考え始めたときに、一度は絶望した経済学が初めて役に立つように感じ、今度は真剣に経済学を勉強し始めました。

基礎理論中心の1年生や2年生の講義も、大学3年生になると履修できる経済学の授業も大きく変わり応用的な授業が中心になります。そんなとき、中込正樹先生の「応用マクロ経済学」という授業に出会いました。かつて僕が感じていた経済学に対する疑問点を、経済学の第一線で活躍している中込先生のところに持っていっていろいろ教えていただきました。その授業は新鮮で本当に勉強になりました。比較的新しい学派である「行動経済学」を知ったのもこの授業を通してです。

また、4年生になると、石井信之先生の「経済学史」という授業に出会い、経済学の思想的な歴史を学び、大学当初に絶望した現在主流派の経済学が、経済学史的には「新古典派」と呼ばれる経済学の学派の一つにしか過ぎないことを知りました。また、成田淳司先生や中村まづる先生のお話を聞いて、その「新古典派の経済学」にも情報の非対称性や不確実性などの新しい領域が生まれ、進化していることもわかりました。(また、4年の夏休みには再び3ヶ月間インドの旅に出かけました。)
経済学についてはもっと勉強したいと思いましたが、残念ながら経済学の勉強を始めたのが3年生になってからだったので、学問の奥深さを垣間見ることはできましたが経済学の大きな体系を学ぶにはあまりにも短い期間でした。こうして、学生の本分である学問については中途半端で終わってしまいました。

僕の大学生活は、普通の大学生のようにサークルの友達と一緒に遊んだりするということはほとんどなく友達も少なかったですが、僕は大学生活に少しの悔いもありません。本当に充実した大学生活だったと心の底から思っています。卒業式では、多くの先生や職員の方たちが僕の卒業を祝ってくれて、青山学院に入学してよかったと心から感じました。



受験生へのメッセージ


僕にとって青山学院大学は第一志望の大学ではありませんでした。しかし、青山学院の経済学部に入学を決めたときには、その考え方を大きく変えました。「青学にいる私」ではなく、「私がいた青学」と呼ばれるようなそのくらいの人になってやろうと思って入学しました。果たして”私”がそういう人物になれたかどうかは甚だ疑問ですが、精一杯走った5年間であったことだけは間違いありません。

このメッセージを読んでいる人々のなかには僕の後輩になる人もいるでしょうが、「大学に入ることをゴールにする」のではなく、「それが一つのスタートなのだ」ということをぜひ考えてみてください。